怒りは悲しみの裏返し
日々を生きていると色々な嫌なことに見舞われるのが私たちの毎日かもしれません。
例えば通勤の中で足を踏まれて朝からイラっとすることもあれば、
お仕事で上司のきつい物言いに腹が立つなんてこともあるかもしれません。
嫌なことが起きれば、当然私たちの心は怒りを感じます。
「あーあ、お前のせいで今日の気分は最悪だよ。どうしてくれるんだよ」
「ほんと腹が立ちすぎて、こいつの顔すらもう見たくはないわ」とか。
そんな風に怒りを感じる時というのは大抵嫌なことがあったときです。
嫌な事とは避けたいこととか、起きて欲しくないこととか、望んでないこととか。
そういう意味合いもあるでしょうが、
だからこそ私たちが怒りを感じるとき気分は最悪になります。
「もうこんなこと二度と言われたくはない」
「こんな状況はもう何があっても起きて欲しくなんてない」
とかく怒りを感じる場面とは幸せや喜びとは対極にある時であり、
苦行や地獄なんて言葉が当てはまるような出来事になり得ていることもあります。
そして怒りというのは悲しみの裏返しなのです。
例えば恋人から浮気をされたとします。
そんな時「ふざけるな!浮気しやがってこのクソ男が!」
と怒りをぶつけたくなる気持ちの奥には裏切られた悲しみが眠っています。
浮気をされてショックすぎて悲しみを口に出来ない。
だから悲しみの代弁として怒りをぶつけたくなるのです。
ここには「本当は浮気しないで私だけを見て欲しかった悲しみ」が隠れているのです。
またこれは一見分かりにくい例ですが、
喧嘩の場面で「てめえふざけんじゃねえぞ!」とブチ切れる怒りの奥にも悲しみがあります。
こんな風に見下さないで欲しいなが言えない代わりに、
本当はこんな風に自分を扱ってほしいを越えて、
「てめえ俺のことをこんな風に扱ってんじゃねえぞ、許さねぇ!」になるわけです。
だから本当は「自分を軽視されて、バカにされて悲しい」が隠れているのです。
悲しみとは自分に対する正当な扱い方を求める思いです。
そして悲しみというのは心の中にある本当の気持ちを現しています。
「本当は自分のことをもっと褒めて欲しい」
「ずっとずっと私のことを愛し続けて欲しい」
その気持ちが言えない代わりに怒りという感情が出てくるのです。
つまり怒りとは本当の感情を隠す二次感情であるわけですが、
でも現実的に悲しみという感情は表現しにくいという側面があります。
例えば恋人に浮気をされて冷静ではいられるでしょうか。
冷静に努めようとはすれど、
少しでも心の気を緩めれば怒りを全てぶつけたくなるほど気持ちがいっぱいいっぱいなはずです。
冷静に悲しみを伝えるどころではないはずです。
また誰かに喧嘩を売られたときに「僕喧嘩は嫌いなんだ。もっと自分を大切に扱って」と伝えようものなら、
相手の怒りに火を注ぐようなものでより危険な状態になるはずです。
理論的に考えて怒りの奥には悲しみはもちろんあるわけですが、
悲しみを感じて表現するハードルが高いという現実的な問題があるわけです。
本当は認めて欲しいから悲しい
ではカウンセリングにおいてはこの怒りをどのようにして減らしていくのでしょうか。
例えば今職場に自分にきつく当たってくる上司が居て、その上司に物凄く腹を立てているとします。
「もうこんなクソ上司やってられるか!今すぐこの上司をクビにしてくれ!」
それ程怒りを感じるくらい気持ちが参っているとします。
でも例えばカウンセリングなどで詳しくお話をお聞きしていくと、
怒りの裏側には「俺のことを批判するばかりではなくて、俺にだってプライドの一つや二つはあるのだからその部分を上司には認めて欲しい」という気持ちが隠れていたりもします。
でも社会人だからとか。大人だからとか。
ありとあらゆる考えが心の中にはあって認めて欲しいとは素直には言えません。
増してや上司からきつく当たられて惨めな気持ちを感じているのですから、
怒りの裏側の悲しみに自分では自覚できないこともとても多いです。
だから怒り→悲しみを否認したい→悲しみ(認めて欲しい)
なんていう構造になっているものです。
またこのように怒りが強く出るケースの場合、
少しだけ感情の構造に変化があります。
怒り→惨めさ。悔しさ。敗北感。→悲しみを否認したい→悲しみ(認めて欲しい)
怒りの感情と同時にやり返したい、見返したいという気持ちも感じますから、
当然怒りの裏にある悲しみを否認したい気持ちも強くなります。
だからまずは怒りの裏の悲しみ(認め欲しい)をお伺いする前に
じっくりと怒りのお気持ちをお聞きする時間を取ります。
怒りをしっかりと言葉にすることでまずは自己受容を大切にしていきます。
具体的には
「自分は惨めではないこと」
「惨めに感じる状況を変化させれる力が自分にはあること」
この辺りを感じられる状態を目指していきます。
自己受容が進んだ状態になると自分の怒りの裏に悲しみや認めて欲しい気持ちがあることを受け入れやすくなるんですよね。
自分の怒っていた理由が「実は上司に認めて欲しかったからなんだ」と気付くことができれば、
怒りをぶつける必要もなくなります。
怒りの感情は自分の本当の気持ちを守る防衛の意味合いもあります。
だから怒りの裏の一時感情に気付けると自然と怒りは消えていきます。
怒りと悲しみが交互に出てくる
また別の例で恋人がデートによく遅刻するのでつい怒ってしまう場合。
こんな時、「何で遅刻するの」という怒りと
「遅刻するってことは私のこと大切ではないのかな」という悲しみが交互にやってくることがあります。
「私を大切にしているなら遅刻しないで」という怒りと
「でももしかしたら私のことを大切ではないから遅刻するのかな」という悲しみが行ったり来たりを繰り返すのです。
怒りの裏側には確かに悲しみがあるのですが、
恋愛と言ったような繊細に気持ちが揺れ動く関係性においては怒りと悲しみが行ったり来たりになることがあります。
そんな時、勿論怒りの裏にある「私のことを大切にして欲しい」という気持ちを自覚してコミュニケーションすることが大切にはなります。
でもそれだけでは怒りが消えないこともあるんですよね。
大切にして欲しいといっても人によってその気持ちは千差万別です。
「彼が遅刻癖を直してくれたら大切にされた」と感じる人も居れば
「彼がきっちり謝罪までしてくれたら大切にされた」と感じる人も居ます。
個々によって感じる悲しみも違うものですから、
「自分がどう大切にされたいと感じている」かの見極めが大切になります。
しっかりと自分が「大切にされている」と感じるポイントの見極めができれば、
怒りは感じる必要性が無くなりますから消えていくものです。
勿論その他にも色々な形で怒りを感じるケースがあり、
ケースごとに怒りの感情の取り扱い方は変わってきます。
これをやればどんな怒りも減る!なんて万能なやり方はあまりありませんが、
でも一つだけ言えるのは怒りの特効薬は人との繋がりです。
人との繋がりとは話を聞いてもらって味方が居ることを感じること。
友達と愚痴を言い合ってすっきりすること。
案外、友人と話をすることで抜けられる怒りも多いものです。
ただまあ激怒とか殺意とか憎しみなどの大きな怒りの感情の場合、
怒りだけではなくてその横に復讐性が隠れているもので、
復讐性を伴うレベルの怒りだと表層意識でも
「やり返さないと気が済まない!」とか
「絶対にこのやられた分だはただじゃおかないぞ!」とか
気が済まない!すっきりしない!ずっとイライラする!とか。
ずーーと怒りの気分の悪さが残ることもあるので、
そういう時は是非是非カウンセリングもご活用していただけたらなと思います。